Introduction of practice group initiatives

実践グループの取組紹介

HOME 実践の場 実践グループの取組紹介 ものづくりのまち福山の人材確保・育成に向けた意識変革プロジェクト

2025.04.02

ものづくりのまち福山の人材確保・育成に向けた意識変革プロジェクト

広島県東部機械金属工業協同組合

─[働きやすい職場環境の整備]─────────────────────────────────

人材育成・人材定着
───────────────────────────────────────────────

─[事業内容]─────────────────────────────────────────
広島県東部機械金属工業協同組合に加盟する複数の企業が市内大学、外部アドバイザー、福山市(グリーンな企業プラットフォーム運営会議)と連携しながら「経営戦略と紐づいた人材戦略策定ワークショップ」を実施。経営者、人事担当者が戦略的視点を持ち、産業構造や社会ニーズといった外部環境や自社の課題を踏まえた人材戦略を策定
───────────────────────────────────────────────

━━━\\\ ここがグリーンなポイント! ///━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

1. 福山市近郊エリアの企業群が一体となって人材確保・育成を目的とするプロジェクトを推進
2. 経営戦略に紐づいた自社独自の強みやビジョンを活かした人材戦略を策定
3. 学生の声を聴くなど、業界全体の人材採用・育成・定着に向けて継続的に取り組む体制づくりを実施

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

福山市を中心とするエリアの機械金属関連産業で構成されている企業集団「広島県東部機械金属工業協同組合(以下「組合」という)」は、2024年度に、組合企業の人事・採用担当者向けのワークショップを開催しました。これは、経済産業省の「地域の人事部事業」の一環で福山市内の製造業における人材確保や業界の活性化を目的とした取組です。ワークショップでは求職者のニーズを知り、企業ごとに異なる訴求ポイントを洗い出し、組合企業同士で情報交換を行うなど、人材確保に主題を置いた活動に取り組みました。

参加した企業の人事担当者は、大手企業にはない自社独自の強みや理念を活かすことに対する必要性への理解を深めるなど、本取組を通じて人材戦略に対する意識に変化が見られるようになりました。

取組のきっかけは、製造業の人材採用・確保が難しいとの組合企業からの声

2024年12月現在、組合には福山市を中心とした広島県東部エリアにある機械、金属、鉄鋼、自動車、電気、電子機器、鋳物、熱処理、商社など、機械や金属に関するあらゆる業種・多種多様な技術をもつ企業175社が加入しています。

このような組合企業との日常のヒアリングの中で、人材確保に関する悩みを多く聞くようになりました。「積極的に採用活動を行なっても、想定した人数を確保できない」「合同企業説明会に参加しても、ブースに人が集まらない」などです。また、経営者からは「若者が、鉄鋼や機械製造の業界に対してポジティブな印象を持っていないため、人材確保が難しい」といった声も聞かれました。

人材が確保できない状況が続けば、広島県東部エリアの製造業は衰退しかねないと危機感を覚え、福山市役所の産業振興課に相談。経済産業省の「地域の人事部事業」を紹介され、同事業として人材確保・育成に向けた意識変革プロジェクトに取り組むことを決めました。

人材戦略策定ワークショップの実施で人材確保に向けた意識改革

経済産業省の「地域の人事部事業(地域戦略人材確保等実証事業)」は、地域の企業群が一体となり、地元の自治体・金融機関・教育機関等と連携し、人材の確保やキャリアステップの構築等を行う事業です。

この事業を通じて実施する意識変革プロジェクトでは、組合に所属する175社を対象に人材確保や業界の活性化を目的として、福山市役所 産業振興課や福山大学、中国経済産業局との連携に加え、人材マネジメントの専門家の協力を得て、人材戦略策定ワークショップの事業計画策定を進めました。

ワークショップのほかに「若手技術者交流会」を開催。機械金属関連産業における技術者同士の交流の場を提供し、広島県東部エリアで培ってきたものづくり技術の情報交換や、技術者同士のネットワーク構築を通じて、人材育成・定着をめざしています。

具体的な事例を通じて経営戦略に基づいた人材戦略を策定

2024年度には、組合企業の人事・採用担当者向けに人材戦略策定ワークショップを5回実施。具体的な事例を通じて「求職者との面接にどう臨むべきか」や「若者への訴求ポイント」を見極めるための実践的な内容が取り上げられました。

2024年度人材戦略策定ワークショップ会場の様子

ワークショップでは各企業が講師の伴走なしで人材戦略を策定することをゴールとしています。参加各社の経営戦略を洗い出した上で採用ターゲットを再設定。そして、独自の強みやビジョンなどをアピールポイントとして、具体的な経営戦略と紐づいた人材戦略の策定を指導しています。

福山大学の学生に就職意識調査を実施し、人材戦略策定に若者の意識調査の結果を反映できるようにしました。人材マネジメントの専門家には、ワークショップの開催計画策定から開催・運営までのサポートを依頼しています。

企業ごとに異なる人材戦略の訴求ポイントを洗い出し、情報交換を行うなどして、製造業の人材確保に向けた意識改革を進めています。

企業規模の違いに関係なく参考になるための工夫

人材戦略策定ワークショップを開催するにあたり、参加企業の規模に大小のばらつきがあることが課題でした。小規模企業では従業員数10人以下で、大規模企業になると300人超などです。従業員20人以下の企業と、100人以上いる企業では、指導する内容が異なります。

そこで、大小すべての企業に共通する内容が、ワークショップの中心となるように講師へ依頼。どの企業でも共通して参考にできる採用戦略が学べる内容にしました。具体的には『就職活動中の学生に対して、大手企業と差別化するにはどのようなポイントが大事か』といった内容です。

企業規模に関係なく共通する採用戦略について学べるよう工夫し、どの企業でも参考にできる内容で指導しています。

このような重要な部分をセミナーの初期段階で言及することで、参加者の興味を惹きつけるという狙いもありました。

経営戦略と紐づいた自社独自の強みを活かす人材戦略へ深まる理解

ワークショップへの参加者は回を重ねるごとに、自社の強みを活かす戦略への理解が進み、発言内容にも良い変化が現れるようになりました。

例えば「離職防止のために、求職者との面接にどのような考え・姿勢で臨めば良いのか」など、より具体的な事例に対する質問が増えてきました。ワークショップに参加する各企業が、企業説明会における若者への訴求ポイントが分かってきているのだと考えられます。

組合事務局の谷本さん「人材確保のために一般的によく言われているようなノウハウは、大手企業などを想定したもの。組合員企業は中小規模の企業が多いため、一般的なノウハウをそのまま活用しても大手と同じような成果は得られないと思います。大手企業にはない、中小企業ならではの利点を活かす方法が必要です。」

広島県東部機械金属工業協同組合 事務局 谷本 雅彦さん

「これまで企業説明会では、ありふれた説明が多く見られました。人材戦略策定ワークショップへの参加を通じ、自社の強みや理念にフォーカスしたような独自性あるものが必要だと、参加した各企業の担当者は少しずつ理解してきているようです。参加者の意識は、明らかに初回より変化していますね。そして、学んだことを自社の採用活動や人材育成に活かそうという意志を強く感じています。」

人材戦略策定ワークショップで活発に話し合いを行う各企業の参加者

各企業がワークショップでの学びを自社での採用・人事に活かす

ワークショップに参加した「リンクス株式会社(従業員数 約50人)」の総務部 濱田 剛(はまだ つよし)次長「正確な労務管理としての『管理人事』から、採用・人材育成を経営戦略に取り込んだ『戦略人事』へ変えていくことを学びました。当社では、管理人事の土台部分が形になってきたかなと感じています。次のステップとして『戦略人事』へつなげるべく、企業のパーパス(意義)を明確にし、それを求職者に共感してもらえるようにアピールしていきたいです。」

「福山熱煉工業株式会社(従業員数 約400人)」の総務課 徳永 武義(とくなが たけよし)課長は次のように話します。
「特に活用していきたいと感じているのが、従業員との1on1のミーティングです。働きやすさや待遇面のことだけでなく『どのような人に入社してもらいたいか』とか、『どのように後輩に指導したいか』といった点も聞いていきたいと思っています。」

同社 総務課で採用・教育担当の末元 凪沙(すえもと なぎさ)さん「採用は手法の前に、組織としてのしっかりとした経営理念や経営戦略が重要だと学びました。理念や思いに求職者が惹かれるからです。今以上に代表や役員が大切にしている思い・考えを意識したいと思います。」

リンクス株式会社 総務部 濱田 剛 次長(左) / 福山熱煉工業株式会社 総務課 徳永 武義 課長(中央)、採用・教育担当 末元 凪沙さん(右)

ワークショップの定期開催を通して人材確保の成功事例を増やす

組合ではワークショップで学んだことを組合員企業が実践し、人材確保や育成、定着につながる成功事例を増やすことを念頭に置いています。そのため、ワークショップをはじめ、大学生との意見交換会やグループインタビュー、若手技術者交流会も継続的に実施し、若者が考える最新のキャリアビジョンや価値観を、組合員企業が常に把握できる環境を整備しつつ、業界全体の人材の採用・育成・定着と活性化をめざします。


※本記事内容は2024年12月取材時の情報です。